Zoos & Aquariums

第2章

生き物ごと、

異なる生育環境を設計する

ホッキョクグマ:
札幌市円山動物園 ホッキョクグマ館

飼育下での繁殖が難しく、野生下でも環境の悪化によりその数を減らし続けるホッキョクグマ。札幌市円山動物園は、その国内トップの繁殖実績を持つ動物園だ。2018年3月オープンのホッキョクグマ館は、継続的な繁殖と飼育環境の充実を目指して誕生した、国際的な基準を満たす飼育展示施設だ。設計では、ホッキョクグマとアザラシの生き生きと過ごす姿をさまざまな角度から来園者に見てもらうことで生物の魅力を伝えると同時に、来園者が北極圏という生息地の環境についても考え、学ぶきっかけとなる施設、そして何度も足を運ぶ施設を目指した。さらに動物の福祉と健康を改善する「環境エンリッチメント」も重視。ホッキョクグマの生息地であるツンドラに近い環境を再現し、洞穴や芝生の日影など変化をつけ、さまざまな場所で過ごせるようにした。

Point 01

ホッキョクグマにとって
暮らしやすい飼育環境

まず重視したのが充実した飼育環境だ。国内最大級の放飼場は1406m²あり、既存施設の約5倍、そして国際的なホッキョクグマの飼育基準「マニトバ州基準」に定められた「1ないし2頭に対し500m²以上(1頭増えるごとに150㎡追加)」を上回る。またコンクリートに囲まれた一般的な環境とは異なり、8mの高低差がある敷地形状を活かしながら、土の上に芝生や樹木を植え、ホッキョクグマにとって暮らしやすい環境を構築した。

Point 02

繁殖を目指した飼育しやすい
環境づくり

ホッキョクグマは出産前後、音や気配に敏感になるため、放飼場や観覧ゾーンとは独立した「産室」を設けている。また明るい寝室は、「室内には天窓を設け自然採光を行う」というマニトバ州基準を満たす仕様だ。さらに飼育員の通路の下に配置した死角の少ないシュート(ホッキョクグマ用通路)、故障しにくいシンプルな機構の柵など、円山動物園の持つノウハウを反映して、ホッキョクグマのストレスを低減し、飼育員にとって安全で飼育しやすいバックヤード環境としている。

Point 03

設計の工夫で、北極圏での
生態系を再現する

来園者は、ホッキョクグマがアザラシを追いかける自然界の捕食関係を間近に見ることができる。これは水深3.7mの深いプールにアクリルを隔ててホッキョクグマとアザラシを併設展示し、北極圏で共に生きる様子を再現するという、展示の工夫によるものだ。全長18メートルの水中トンネルをはじめ、水上、水中のさまざまな角度から見られるようにし、来園の度に新たな姿が見られるような施設とした。